青山から六本木へ Sekappyの軌跡を振り返る ~Cause & Effect~

 物語は因果によって生まれる。

 因果とはすなわち「原因」と「結果」の入出力の関係性そのものだ。当たり前の話にはなるが、結果は結果のみでは存在せず、そこに原因があって初めて結果が出力される。

 地球に引力があるから、木からりんごが落ちる。落ちるりんごは物理学者にインスピレーションを与える。その物理学者は、後の世で偉人と呼ばれるようになる。因果は連鎖し、新たな結果へと続いていく。

 そして理論上、原因と結果の関係が逆転することもない。「りんごが落ちる(ということがあらかじめ決定されている)から引力がある」という考えは、どこか運命めいた響きを伴っていてロマンチックではあるかもしれない。とはいえ我々に因果の逆転を観測する術――有り体に言えば”未来予知”ができない以上、その検証はできないし、深く考えてもキリがない。

 ゆえに人は行動する。意識的にせよ無意識的にせよ、行動によって原因を作り出すことでしか結果は得られない。

 そして、そうした行動の積み重ね――過去から現在、そして未来へ無限に連鎖する因果関係を原因と結果に解いていったとき、そこには物語が残されるのだ。

 Sekappyもまた、“社員が約100名という規模になった”ことにより“オフィスを青山から六本木一丁目へと遷した”という結果に辿り着いた。

 さらに言えば、2年半前の創業時点ではわずかに5名だった社員数が100名近くまで増えたことにも、何らかの現象なり状態なりに起因したはずである。その因果をときほぐしていくことで、現在という状態が「結果」から「一つの物語」となるだろう。

 すなわちこれは、たどり着いた現在と、そこに至る道程の物語だ。

世界中の人が共感し得る価値観

「Sekappyがやっていることは、いわば《英雄的》な試みですよね」

 Sekappyの現在地点についてそう称したのは、佐々木 大輔(顧問)だ。

▲佐々木 大輔

▲佐々木 大輔

 元LINE株式会社執行役員であり、現在はスマートニュース株式会社の執行役員としてニュースアプリ『SmartNews』を手掛ける佐々木。華やかな経歴の持ち主である彼は、生粋のマジックファンとしても知られており、顧問としてSekappyの事業に参画している。

 創業時から現在に至るまで、あるときは外部から、またあるときは内部からSekappyを見守ってきた存在。そんな佐々木から見て、Sekappyという企業のパーソナリティには、《英雄的》と呼べる要素が含まれると言う。

「たとえば、パタゴニアっていうアウトドアブランドがありますよね。そこでは、『勤務中でも、いい波が来たらサーフィンに行っていい』というユニークな社風があるそうです。『アウトドア用品のメーカーだからこそ、自分たちが一番アウトドアを楽しもう』という。いわば趣味と仕事を両立させる働き方を実践しているんですね」

▲2007年に出版された『社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論』。発行から12年が経った現在でもビジネス書の定番として挙げられる。

▲2007年に出版された『社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論』。発行から12年が経った現在でもビジネス書の定番として挙げられる。

 佐々木は、アメリカのカリフォルニア州に本社を置く世界的なアウトドア用品メーカー『パタゴニア』を例に出しながらこう続けた。

「パタゴニアの理念が世界中で多くの称賛を浴びているのは、今、世界的に『働くということと自分の好きなことを両立させること』が大きな関心事になっているからです。でもそれって、『労働』という行為が本質的に『時間を犠牲にすること』である以上、いざ実現しようと思うと死ぬほど難しいんですよ」

 そう語りながら、言葉を継ぐ。「でも、ここではそれができていて、だからこそ居心地がいい。僕から見ると、Sekappyがやっていることの価値は、パタゴニアと同じレベルで世界中の人が共感し得るものだと思うんです」

 政府が「働き方改革」を謳い、2019年4月には「働き方改革関連法」が順次施行されていった。厚生労働省からは「仕事と生活の調和」ワーク・ライフ・バランスのガイドラインも公開され、今や仕事と趣味の両立は海外のみならず、日本の労働者の中でも最大の関心事の一つとなっている。

 無論、ワーク・ライフ・バランスの実現に意欲的な企業も決して少なくない。しかし、メンバー全体がゲームという繋がりによってゆるやかに結ばれたSekappyでは、それは前提とも言えるものだった。

「売り手市場とも言われる中、どこの会社もエンジニアの採用に困っているわけじゃないですか。そんな中で、創業からたった2年半で100名近くの規模にスケールするというのは驚くべきことです。Sekappyのしたことって、真似をしようと思ってもできないんですよ」

 それを実現できたのは、ひとえに働く場としてだけでなく、同好の士が交わる場としてSekappyが機能しているからだ。

 誰にも真似できない、ワーク・ライフ・バランスへの挑戦。そしてそれを可能とする企業風土を、佐々木は《英雄的》という言葉で表現した。

 誰もがその名を知る一流企業の中核として数々のサービスの展開に関わってきた佐々木は、自然と多くの企業と交流してきた。その佐々木からしても、Sekappyというコミュニティには特異点が感ぜられるようだった。

 佐々木が《英雄的》と称すSekappyという企業、その実情と、そこにある趣味を謳歌できる環境――いわば「コミュニティ」と呼ぶべき土壌が形成されるに至った成長の物語は、どのようなものだろうか。

根幹にあるのは「コミュニティ」の力

「成長の要因……一番は、メンバー同士の結びつきの強さだと思います」

 創業から現在に至るまで、2年半に渡るSekappyの成長の物語。志村 一郎(CTO)は、その過程についてよく知る人物の一人だ。

▲志村 一郎

▲志村 一郎

 志村は、Sekappyのサービスの提供や事業の推進に最も深く関わっているCTO(最高技術責任者)だ。2019年10月現在、開発部をはじめとして、イベント部や広報部など、社内の部署を幅広く統括している。

 そうした立場にある志村にとって、Sekappyの持つ最大の強みにこそ、その成長の要因が秘められていると語る。そして、その最大の強みというのが“コミュニティ”の力だ。

「Sekappyで働くメンバーは、上司、部下、あるいは同僚であると同時に、趣味で繋がっている仲間ですから。一般的な開発チームと比べて、メンバー間のコミュニケーションコストが格段に低いと思います。『言いたいことが言えない』といった閉鎖的な状況が発生しにくいため、効率的に開発を行うことができます」

 Sekappyでは、受託開発、あるいは客先開発の双方を軸に事業を展開している。そして往々にして、プロジェクトを円滑に進めるためにはメンバー間の交流も欠かすことはできない。

 ごくミクロな視点においても、情報はビジネスを稼働させるための潤滑油である。今日こんにち、業種を問わずして「報・連・相」という標語がビジネスの基本と言われて広く普及しているのも、そうした細やかな情報伝達が効率的な業務遂行のための重要なファクターとして認知されていることの証左と言えるだろう。

 そうした情報伝達を嫌々ではなく、気軽に・能動的に行うことができるというのは、開発ならずともプロジェクトを進行していく上ではマネージャー・メンバーの双方にとって大きなアドバンテージとなる。

 仕事の軸。そしてマジックの軸。その両方が機能しているからこそ、組織として縦軸と横軸の交点が多い。そうした組織の構造はシームレスなコミュニケーションを促進し、プロジェクトの遂行に大いに役立てられているのだと志村は言う。

「日々のプロジェクトの遂行のみならず、未経験者の育成などでもコミュニティの力が活きることは多いです。メンバー間の心理的な壁が薄いから周りも目をかけてくれるし、本人も周りに頼りやすいですから。管理する立場にしてみても、コミュニケーショントラブルなどで工数が余分に取られることが少ないというのはメリットが大きいです」

 もちろん、意見がぶつかることがないという話ではない。しかし、それでもわだかまりが残るようなことはなく、遠慮のない距離感で課題解決の方策を探っていける。それが、Sekappyにおけるメンバー間でのコミュニケーションの最も価値のある部分だと志村は語る。

 そしてSekappyの事業規模が大きくなっていくにつれ、そんな社風に共感してくれている人が増えていることが実感できる。「社内のコミュニティが機能しているという強みが、採用においても一貫している」と志村は言った。

「コミュニケーションの価値というものは、定性的なものですし、具体的な数字にするのは難しいかもしれません。しかし、新人育成についてもそうですが、『取りたいコミュニケーションをすぐに取れる』ということは目に見えるくらい強い力だと思います」

 Sekappyにおいて、同僚や上司といった存在は「同じ会社に勤めるメンバー」である以前に「マジックで繋がる仲間」だ。

 根本的な部分に共通項があるという事実に起因して、現在のSekappyというコミュニティという結果が出力されたということなのかもしれない。

 冒頭で述べたとおり、理論上、原因と結果の関係が逆転することはない。

 逆転することはないが、マジック×ITという一見噛み合わない二つの語彙が並んだのは、今という地点に到達するためだったのではないか。そう思わせるような不思議な引力が、このコミュニティにはあるように感ぜられる気がするのだ。

 無論、ただの言葉遊びに過ぎないが――

 どこか運命めいた響きを伴っていて、ロマンチックではある。