クラウドファンディングのリターン企画「原根 健太のオンラインコーチング」取材レポート

今年4月、Sekappyでは「賞金制大会を毎週開催! 誰でも気軽に参加できるMTGアリーナの大会を開催したい!」というクラウドファンディングプロジェクトを実施しました。
「オンラインで気軽にMTGアリーナの賞金制トーナメントに参加できるプラットフォーム」を開発すべく実施した当プロジェクトは、非常に多くの方からご賛同を賜ることができ、おかげさまで目標金額を上回るご支援をいただくことができました。ご支援・ご協力をいただいたみなさまには、この場を借りて改めてお礼申し上げます(現在は終了しています)。
さて、当プロジェクトの中ではご支援いただいた方へ様々なリターンをご用意しておりました。中でも特に人気のあったものの一つが、「J-SPEED原根 健太のオンラインコーチング」というコースです(※こちらはプロジェクト公開から1ヶ月後に追加されたコースです)。
※クリックすると拡大します。
そしてこのたび、原根選手ならびにこちらのコースにご支援にいただいた方のうち2名の方にご協力いただいて、オンラインコーチングの密着取材をさせていただきました。
原根選手による全3時間のコーチングは内容も驚異的な密度で、参加者の方もみるみるうちに課題を解決し、プレイングの精度を高めていたように思います。この記事ではその大まかな内容についてお伝えしていきます。

普遍的な内容を掘り下げる

さて、記事の後半では実際に原根選手の言葉でも語っていただきますが、原根選手は今回のコーチングを行うにあたって「賞味期限の長い話をする」というテーマを持って取り組まれていたそうです。
当取材にご協力いただいた「かるーあみるく」氏。彼が今回相談したかった課題は、「スタンダードでのティムール再生の回し方」「サイドボーディングの考え方」です(※当コーチング実施は2020年7月10日)。みなさんもご存知の通り、《荒野の再生》は2020年8月3日にスタンダードで禁止カードに指定されることになりますが、原根選手がかるーあみるく氏とのコーチングの中で話していた内容は、ティムール再生以外のデッキでも普遍的に応用の効くメソッドでした。
具体的に、原根選手が当コーチングの中で話していた内容は大きく分けて以下の3点です。
  • デッキリストに込められた意図を紐解くための考え方
  • 理想的なゲームプランを実現するためのプレイングの指導
  • 具体例を交えたサイドボーディングの考え方
コーチングの中で、“kanister”の愛称で知られるピオトル・グロゴウスキ選手のデッキリストを見る時間がありました。原根選手はこのデッキリストを具体例としつつ、構築の特徴や、なぜそうした構築になっているのか、思考の過程を解説していきます。《荒野の再生》が3枚しか採用されていないこのデッキリストの利点や、目指している方向性について、分かりやすくお話されていました。
また、プレイングの指導についても「この呪文は打ち消すか否か」「このクリーチャーを除去するか否か」といった各論的な話に終始することはありません。たとえば《選択》を例とした軽量ドロースペルのプレイの仕方やプレインズウォーカーに対処するための駆け引き、それらを応用した「数ターン先の状況を見据えるプレイング」についてなど、より良いプレイについてというよりより良い思考法についてのお話に重きを置かれていたのが印象的でした。
お話されている内容自体は高度でしたが、原根選手のお話は非常に丁寧かつ的確で、傍から聞いている立場からしても分かりやすい内容でした。かるーあみるく氏が理解できていない点があれば何度でもやさしく指導し、コーチングの時間もあっという間に終わってしまいました。
もとより原根選手のファンだったというかるーあみるく氏は、コーチングにも非常に満足行った様子で、デッキリストの見方やカード枚数の調整、サイドボーディングについてなど、多くの知見を得ることができたと語ってくれました。

プレイングの「なぜ?」が分かるように

コーチングの様子を取材させていただいたもう一名のプレイヤーである「カズヤ」氏は、ひたすらマルドゥ・ウィノータのプレイングについてのコーチングを受けていました。カズヤ氏がMTGアリーナでデッキを回し、原根選手がそれを見守る形式です。原根選手は最初から正解のプレイを教えるのではなく、カズヤ氏自身がプレイし、そのプレイについてコメントを寄せるという形で指導を行っていました。
たとえば《ラゾテプの肉裂き》と《急報》の2枚のカード。点数で見たマナ・コストが2で、人間でないクリーチャーが2体並ぶ点などいろいろと共通点の多いカードですが、見ての通りこれらはインスタントとクリーチャー(ソーサリータイミングでしか唱えられないカード)というカードタイプの差があり、運用の方法もまったく異なります。
もちろん「それくらい見れば分かるよ」という方も多いかと思いますが、ではこれらの運用の方法は具体的にどう異なるでしょうか? どういった相手に、どのようなタイミングでプレイするのが正解なのか。感覚的に捉えがちな要素だからこそ、言語化するのは難しいところです。
この例では、原根選手は「対戦相手のデッキの色と残っているマナの数に注目する」など、対戦相手側の視点を持ちながらこれらのカードの差異を明示的にし、実際のプレイに反映させていく手法を説いていました。
カズヤ氏のコーチングでは、こうした感覚的なプレイングに対して「なぜそうするのか?」あるいは「なぜそれをしないのか?」を話しつつ、さらにそれらの思考を深く掘り下げて「細かなプレイングの積み重ねを先の展開に結びつける」ような指導が行われていました。
それらの指導をマルドゥ・ウィノータというデッキの使用方法に落とし込んでいきます。こうしたコーチングが実を結び、デッキの強みを最大限に引き出して豪快な盤面を築き上げた場面もありました。

インタビュー:原根 健太 ~コーチング企画を通じて~

今回取材させていただいた2名の他にも2名のコーチングを行い、全4名のコーチングを終えた原根選手。これらのコーチングの中で意識していたことや、今後の課題について伺いました(※インタビューはコーチング終了直後に行いました)。
――「コーチングお疲れさまでした。今回、原根選手にとって初の試みであるマジックのコーチングという企画を終えて、ご感想などあればお聞かせください」
原根「まず、『意外とできることが多い』と思いました。正直なところ、コーチングを実施する前は『マジックのコーチング、しかも数時間で教えられることって何があるだろう?』と懸念していました。人によって技術も違うし、そもそもマジックって『これさえやっておけば大丈夫』みたいな明確な教材はないですし。ですが、実際にプレイを見せてもらうと、数時間の間でもその人その人のプレイングの傾向や課題を見つけて指導することもできました。ただ、すごく大変でした(笑)
――「大変というのは、具体的にどういったところがでしょうか?」
原根「まず、3時間でその人の課題を見出そうと思うとものすごく集中していないといけません。セットランド一つ取っても、意図を汲み取る必要がありますから。プレイを観るといっても、配信を視聴したりするのとはまったく勝手が違いますし、体感だと自分でプレイするよりも2~3倍は体力を使いますね。8~9回戦やるのと同じくらい(笑)」
――「それだけ熱量を持って指導に当たられていたということですね。コーチングの中で、原根選手は『最初から答えを教えるのではなく、まずは自分で考えてもらう』ようにしているように見えました。そうした指導方法の意図を教えてください」
原根「今回のコーチングは一回きりの企画だったということもあって“賞味期限の短い話”はしないように心掛けていました。そのため、その人のプレイングの傾向や、構築に対する意識、サイドボーディングの考え方など、一度の指導でもずっと先まで残るような、普遍的な課題を見出そうと心がけました」
――「賞味期限が短い話というのは、具体的にどういったものでしょうか?」
原根「たとえば『今のアタックするべきだった?』とか、そういう話って正直どうでもいいんですよね。次同じ盤面になることがあるかも分からないですし。でも、『アタックすべきじゃない場面でアタックしてしまった』ことを繰り返していたなら、それはその人のプレイングの傾向と言えますし、そうした傾向を見つけることができれば直すこともできます。今回のコーチングにあたっては、そういう意図で指導を行いました。もちろん、たとえば何度か指導をする機会があったり、あるいはルール覚えたてくらいの初心者の方には、また違った指導をすることもあるかもしれません」
――「なるほど。話は変わりますが、今回の企画を通して『プロがマジックのコーチングをする』という企画……というか、ビジネスそのものについての課題点などは感じましたか?」
原根マジックのプロという職業自体が安定した土壌の上にあるわけではないので、自分自身の練習もしなくてはなりません。もしもプレイヤーズツアーやマジックフェストに向けたコーチングをしてくれと言われたら、その点の折り合いがつけにくくなってしまうかもしれません。また、マジックはどうしても技術を定量的に測ることが難しいので、コーチングの成果をはっきりと示しにくいのは課題ですね。運による偏りもある以上、『○勝しました』とかも指標になりにくいですしね」
――「今後、こういったコーチングの実施は難しいということでしょうか?」
原根「いえ、そうではありません。もちろんいろいろと課題もあるとは思いますが、最初に申し上げたとおり、コーチングという領域には思っていたよりもできることがたくさんあると感じています。また、今回の取り組みを通じて『プロによるコーチング』の前例ができたことについては非常に良いと思っていて、諸々の反省を踏まえた上で今後の可能性を考えていきたいですね。機会を提供いただいたSekappyさんと受講者の方々にはとても感謝しています」
――「なるほど。このたびはお時間をいただきありがとうございました!」
これにてクラウドファンディングプロジェクト「賞金制大会を毎週開催! 誰でも気軽に参加できるMTGアリーナの大会を開催したい!」のリターンである原根選手のコーチングは終了しました。記事ではお伝えしきれませんでしたが、コーチングの中では「ドローの受けを作るためのプレイの積み重ね」「カードを2枚積み・3枚積みにするときの考え方」など、フォーマットやデッキに関わらずタメになるお話が盛りだくさんでした。
原根さんも仰ったとおり、マジックのプロという土壌は決して安定しているとは言い難く、それゆえに「プロによるコーチング」はいろいろな意味で難しい企画でもあります。しかし今回の取材を通して、難しさの反面で非常に大きな可能性のあるコンテンツでもあると感じました。
またいつの日か、こうした企画が(弊社主導になるかは不明ですが)実施される日がくるかもしれません。そんな日が来るのを楽しみに、今回の取材レポートを締めさせていただきたいと思います。